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2021/10/29

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【O-CHAパイオニア賞】2021年O-CHAパイオニア賞学術研究大賞受賞(水上 裕造様)

公益財団法人世界緑茶協会では、茶に関する学術研究や茶の振興に寄与した産業技術、緑茶のある豊かな生活文化の提案など、優れた成果を顕彰しています。

O-CHAパイオニア賞は、茶に係る優れた学術研究成果「学術研究大賞」、茶の生産や消費に関する優れた技術や商品等の開発「産業技術・商品開発大賞」、茶の文化及び芸術に関する優れた成果「文化・芸術大賞」、茶に関する国際的な貢献や日本茶の普及等に係る優れた成果「O-CHA特別大賞」の4つの大賞と、茶の将来を牽引するような意欲的な取組「CHAllenge賞」からなります。

今回は、2021年にO-CHAパイオニア賞を受賞された方々をご紹介いたします。

におい嗅ぎガスクロマトグラフを用いた茶の香りの解明

水上 裕造様
(国立研究開発法人 農研機構果樹茶業研究部門 金谷茶業研究拠点)

研究について詳しく教えてください。

研究の開始

2004年から茶の香気成分の分析を開始しました。最初は、官能検査の結果とガスクロマトグラフ(GC)分析の結果を紐づけることができませんでした。しかし、研究の末、GCが検出できる成分と人の鼻が検出できる成分とは異なること、そして、成分はGCで検出できないほど非常に低濃度であることを突き止めました。そこで、2007年から人の鼻を検出器とした「におい嗅ぎガスクロマトグラフ」(GC-O)を導入し、実際に人の鼻が検出する成分を研究対象にすることを始めました。

お茶100リットル、茶葉5kg以上といった大量のお茶から香気エキスを抽出し、香気エキスを細かく分けてから分析することにより、GC-Oで検出された香気成分が特定できるようになりました。

さらに、620種類以上もある茶の香気成分の中から、GC-Oにより4成分を新たな茶の香気成分として特定しました。また、香気エキス希釈分析により各香気成分がどの程度元の茶の香りに影響するかが明らかになりました。

「香りの見える化」に成功

茶の香気成分の中から実際に茶の香りに影響する成分を特定したことは、茶だけでなくその関連商品の開発や品質管理等の基礎資料となり得ます。

また、定量分析を通じて、これまで難しかった「香りの見える化」が可能になり、波及効果の高い成果といえます。

「香りの見える化」でできること

「香りの見える化」により、香りをわかりやすく評価することができ、消費者が好む香りが見えるようになり、新たな商品開発の加速化が期待できます。

さらに、価格による香りの違いが見えることにより、比較的低価格な商品でも、高価格帯の商品の香りに近づけることができ、付加価値をつけることができます。

また、賞味期限の設定やロット管理に用いることができ、香り高い商品の適切な品質管理ができます。

お茶の「香りの見える化」は、栽培から製造、さらには品種育成にフィードバックされ、技術の改良や新品種の開発が期待されます。

パイオニア賞を受賞されていかがでしたか。

長い歴史のあるお茶の香りの研究の中で、小生の研究成果が評価され、O-CHAパイオニア賞を受賞できたことは大変嬉しく思います。香りの研究にご理解頂き、研究に必要な機材を揃えて頂いた当時の農研機構の関係者皆様、そして私生活を支えてくれた家族に深く感謝しております。

今後の展望などを教えてください。

現在、「香りの見える化」のため、におい嗅ぎガスクロで検出される成分の定量分析に取り組んでいます。非常に微量な成分の分析なので、時間がかかりますが、研究成果がまとまれば論文等で公表する予定です。皆様の香りビジネスやお茶の普及活動などあらゆる面に研究成果を活用して頂ければ幸いです。

さらに将来、定量分析が進めば、お茶の香りを人が再現できるようになります。香りを人がコントロールできるようになれば、あらゆる面で香りビジネスが展開され、我々の生活に潤いを与えてくれます。さらに、お茶の香りが広く普及すれば、お茶の消費が拡大し、茶業の発展につながることが期待されます。

お茶に親しむみなさまへ伝えたいことはありますか。

 お茶の香りに関与する成分を調べていると、「なぜお茶が親しまれているのか?」がわかるようになってきました。例えば、お茶の香ばしい香りに関与するピラジンは血流を改善し、リラックス効果をもたらしてくれます。さらに新茶の新鮮な香りに関与する青葉アルデヒド、リナロール、ゲラニオールなどは癒し効果が科学的に実証されています。よって、常にお茶に親しんでいれば、健康な体を維持できるだけでなく、心穏やかに充実した生活をおくることができると思います。

関連リンク

(公財)世界緑茶協会ホームページ https://www.o-cha.net/ 

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